ドクター・コール
三百人以上もの乗客が長時間乗っていると、時には機内で急病人が発生する場合もあります。ある時縄文航空の国内線の機内で急病人が発生したために、航空交通管制 センターに対して医療上の緊急事態 ( Medical Emergency ) を宣言し、羽田空港への進入着陸に優先権を得て、緊急着陸した ケース がありました。男性の乗客が飛行中に意識を失ったとのことで、空港の ゲート に到着して直ぐに救急車で病院に運ばれましたが、気の毒なことに心筋梗塞か脳梗塞で亡くなりました。写真はクリックで拡大。
国内線の場合には病状に応じて最寄りの空港に着陸すればよいわけですが、太平洋を横断する長距離国際線の場合はそうはいきません。そのため エコノミー・クラスの座席に当日余裕がある場合には、最後部の座席の列に連続して 4人分の席を空けておき、急病人が出た際に ベッド の代わりに使用します。下痢、発熱などの場合には市販の薬が一応機内に用意してありますが、乗客が希望した場合に限り、あくまでも自己責任で服用できます。
しかし特に米国人の中には 病気と訴訟を持って医者に来る といわれる程、悪徳弁護士と手を組んで、訴訟に持ち込み カネ をせしめようとする者もいるので、その対応には要注意です。
急病で困るのは尿路結石、胆嚢結石などの、体内の石による急激な痛みなどです。まず機内の乗客の中に医師などの医療関係者がいるかどうか、機内呼び出し(ドクター・コール)をして協力を求めますが、いない場合には近くを飛行する同じ会社の飛行機に援助を求めます。しかしこれは同方向に飛ぶ飛行機に限ります。反対方向を飛行する相手では、互いにマッハ 0.82 (音速の 82 パーセント、時速約 800 キロ)の高速(相対速度はその二倍になり、音速の 1.64 倍 )ですれ違うために、すぐに無線電話の到達圏外に出てしまい役に立たなくなるからです。
同方向に飛ぶ場合とは、たとえば縄文航空の九月の時刻表によると、成田発、ワシントン・D C 行きの飛行機の場合には、それよりも 10分前に成田を離陸して ニューヨークに向かう飛行機が飛んでいるので、必要な場合にはその飛行機にも協力を求め、ドクター・コールをしてもらい、医師がいたら操縦室に来てもらい 、社内無線で交信して医療上のアドバイスを求めます。
同じ会社の飛行機だけでなくある時、近くを飛ぶ鶴丸航空の飛行機からも、 ドクター・コール を求められたことがあったそうですが、互いに日本語が通じる飛行機同士の方が依頼し易かったからでした。
医師の援助を求める別の方法としては、フォーン・パッチ ( Phone Patch )があります。日本ではあまり知られていませんが、たとえば太平洋上では ハワイ の ホノルル にある地上局( 対空通信会社で航空管制通信も兼務 )を短波無線 ( HF ) で呼び出して、予め登録してある日本の医療サービス 会社にハワイから国際電話を掛けてもらい、電話がつながると短波無線( HF )の通信回線と、国際電話の回線を電気的に接続します。
それによってパイロットは 医師が二十四時間待機する、日本の医療サービス 会社と電話連絡が可能になり、急患に対する処置について適切な助言を求めることができます。しかし機内には聴診器、体温計などはあるものの、激しい痛みを和らげるモルヒネなどの医薬品を搭載していないため、機上での対応には限りがあります。
船舶は世界中どこからでも、海事通信衛星(インマルサット、INMARSAT )を使い国際電話が容易に掛けられますが、飛行機の場合、現時点では一部の地域だけが利用可能であり、前回打ち上げに失敗した 運輸多目的衛星 の更なる打ち上げや、通信技術の革新、短波無線( HF )による データ・リンクの設備が待たれます。写真はクリックで拡大。
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