ホット・ベッド
金野氏から聞いた話によれば、昭和50年代の初期までは飛行機の性能上の理由から、成田から ニューヨーク への直行便は飛べずに、約 7 時間かかる北米 アラスカ 州の アンカレージ に着陸 し、そこで燃料補給と、乗組員交代をしてからニューヨークに向かいました。
その為に今よりも 3 時間近く余計に時間がかかりま した。直行可能な飛行機を使用するようになると、東行き (ニューヨーク行き)では 12 時間、向かい風の ジェット 気流が強い冬場の西行き(成田行き) では 14 時間かかるため、航空会社では最初は ダブル・クルー と称 して二組の乗組員を乗せて飛行し、飛行中に クルー を交代させま した。
機長 2 名、副操縦士 2 名、航空機関士 2 名、それに スチュワーデス 2 組( 28 名 ) という大編成で したが、飛行時間の半分は非番 ( O f f D u t y ) の為に仕事もせずに、クルー 用の ベッド で休養するという贅沢な仕組みで した。しかもその間も D H ( D e a d H e a d 、死んだ頭、仕事をする頭数に入れない乗組員 ) として 、1 時間 いくらの D H 手当が貰えました。
その為に ニューヨークを一往復すると 5 万円の手当が付き、月に 二 回行くと 10 万円の収入増になったので、パイロットも スチュワー「デス」 も大喜びで した。さすがに人件費がかかり過ぎたので、会社もその後は マルチ ・ クルー(M u l t i C r e w、多人数)編成に変えました。操縦席で言えば、指揮権を持つ機長( Pilot In Command )1名、機長資格を持つ操縦士 1名、副操縦士1名、それに航空機関士が必要な機体では交代の航空機関士を含めて2名となり、6名が5名になりました。
「デス」についても、ひと組の人数に数人を増やした結果、パイロットも「デス」も飛行中に三分の一ずつが 3~4 時間の休養を取れるようになりました。寝る場所については、7月19日の ブログ 「 デスのお肌 」で述べています。
ところで ホット・ベッド ( H o t B e d 、熱い寝床 )という言葉を聞いたことがありますか?。ベッドを他人と交代で使う際に、前の人の体温で暖かくなったベッドに、次の人が寝ることです。気持ちが悪いなどというお上品な人は、「デス」 に不向きです。
「デス」の語源は前回のブログに書いたように、「豚小屋の女性番人」 であることを思い出してください。毛布をきちんとたたむのが、次に寝る人へのエチケットです。狭いエコノミー・クラスの席で眠る乗客と比べれば、水平なベッドで寝られるのは幸せです。写真はクリックで拡大。
「デス」の仕事は乗客の「嘔吐」の後始末や、家ではしたこともない汚れたトイレの掃除も、ルーティン・ワーク( Routine Work 、日常業務 )です。下っ端の「デス」が使い捨てのビニール手袋をはめて、飛行中に トイレが汚れる度に掃除をしますが、家の者や友人には見せたくない姿です。ある「デス」が勤務を終えて成田から電車に乗り、空いていたのでフライトの書類の整理をしていると、隣に座った酔っぱらいが「ヘド」を吐きました。その「デス」はそのまま書類の整理を続けましたが、ふと気が付くと周囲の人は皆席を立ち、その周囲だけ人がいなくなっていたそうです。
「デス」にとって床の「ヘド」を見ることや、臭気などなんでもないし、国際線に乗務する人は、ホット・ベッドに限らず、いつでも、どこのホテルでも寝られる図太い神経でないと勤まりません。更に時差を克服できる人でないと不向きということです。大部分の人は仕事に順応できますが、中には外国に行 く と 全 く 眠れない人もいま した。そういう人は時差の無い、国内線を専門に飛びま した。
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なるほど!
うちの姪は、むかし縄文航空のワシントン線に搭乗していたので、かなりXXXXXXX(略)-------:-p
投稿: Y.S | 2006年9月22日 (金) 12時37分
となると、ホット・ベッドの経験者ということで---。ところで米国の原子力潜水艦では、水兵さんの二割はホット・ベッドの生活だそうです。航海中は当直に立ち、停泊中は遊びに上陸するからでしょうか?。
投稿: 金野氏の友人 | 2006年9月22日 (金) 21時06分
こんにちは
ますます快調のようで何よりです。
トラックバックさせていただきましたのでよろしく。
投稿: e_fan | 2006年9月23日 (土) 14時38分
どうぞ、ご自由に
投稿: Y.O. | 2006年9月24日 (日) 20時54分