クルーの免税基準
うわさ話が得意な金野氏から聞いた話なので真偽のほどは不明ですが、それによるとある時イタリアの ミラノ からの帰りに、嫌な事件が起きました。あるスチュワー「デス」が ミラノ で購入した イタリア 製の革靴を、成田で入国の際に申告せずに持ち込み、税関検査で摘発されたのでした。
税関と航空会社の乗組員との間には互いに信頼関係があり、通関に関しては不正行為をしない。従って旅客並の検査もしない ということでしたが、たまに通関の際にスポット・チェックと称して荷物の検査をする場合もありました。多くの場合買い物が多い「デス」が対象であって、女房や息子、娘に常時 カネ を絞り取られて金欠状態にある機長連中が検査された話を聞きませんでした。
その若い「デス」は税関の事務室に連れて行かれ脱税の容疑で調べられましたが、機長からの連絡を受けた客室乗員部の管理職が税関に貰い下げに行き、謝罪して勘弁してもらいました。しかしその「デス」はそれ以後乗務の スケジュールを外されてしまい、毎日出社 スタンバイ( Stand by )の勤務にされました。彼女が税関に摘発された話は瞬く間に「デス」の間に広がった為に、乗務をせずに皆と顔を合わせる機会が多い スタンバイ勤務をすることは、「さらし首」の刑に処せられたのと同じでした。
二週間後に彼女は泣く泣く自発的に退職願いを書き、会社は直ちに受理してこの事件は幕を閉じました。これ意外にも外国で購入した毛皮のコートを無申告で日本に持ち込み、税関に発見され解雇された「デス」が同業他社にいたとか聞きましたが、前述の革靴の場合、僅か 六パーセント の輸入関税を惜しんだ為に、「デス」の仕事を棒に振ったのは浅はかなことでした。
金野氏は外国の税関で、以下の出来事も経験したそうです。ある時 フィリピン の マニラ にある ニノイ・アキノ 空港( 夫人である アキノ 元大統領の、暗殺された夫の名前から命名 )に着陸しましたが、通関の際に税関職員がスチュワー「デス」に荷物を開けさせて、中から一枚一枚下着を取り出しては旅客にも見えるように、両手に持って広げました。「デス」は顔を赤らめると共に、機長は怒りました。あとで分かったことは、税関職員に対する会社からの付け届けを、日本から派遣された者が忘れていたことが原因でした。(写真はクリックで拡大。)
中国を含めて開発途上国では、税関に限らず役人、警官など権力を持つ者が、職権を利用して ワイロ を要求し カネ 稼ぎをするのが普通ですが、 それに対して ワイロ や チップ を支払うことは、考え方によっては ヤクザ に払う場所代や 関所の通行税、あるいは事務手続きの 意図的遅延 を事前に防ぐための 潤滑油 のようなものです。ところで チップ の意味をご存じですか?。
T i p とは、To Insure Promptness 、つまり迅速性に保険を掛ける という意味があるのだそうです。ニノイ・アキノ 空港の税関に事前にチップ (それなりの金額の付け届け)を渡しておけば、「デス」も嫌な目に遭わず迅速に通関できたはずでした。
ところで外国を常に往復する クルー(乗務員)には、一般旅行者とは異なる税関の免税基準がありますが、六千円、九千円と時代と共に順次引き上げられて行き、今では現地価格で一万五千円~二万円前後だと思います。
しかし「デス」が退職前の最後の フライト (ラスト・フライト)の場合には、会社からの ラスト・フライト 証明書があれば、一般の旅行者と同じ免税基準の二十万円が適用されます。パイロットでその証明書を貰った人のことは聞いたことがありませんし、たぶん金野氏も貰わなかったと思います。
ちなみに一般の旅行者に適用される免税基準とは
1)合計額が20万円を超える場合は、20万円以内におさまる物品は免税になり、その残りの品目に課税されます。
(2)1個で20万円を超える品物の場合は、全額について課税されます。例えば25万円のバッグは25万円の全額について課税されます。
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