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2007年3月26日 (月)

自衛隊機の場合

金野氏の友人である S 氏が海上自衛隊徳島基地で S2F という グラマン 社製の小型哨戒機に乗っていた頃の話ですが、ある時訓練飛行を終えて基地に帰り着陸のため車輪を下げたところ、右の主車輪が出なくなりました。

Tracker この飛行機はもともと航空母艦に搭載するものであり、空母では離陸の際には蒸気 カタパルト で飛行機を射出し、着艦の際には尾部の テイル・フック( Tail hook )を甲板上に張った ワイア に引っかけて機体を強制停止させる頑丈な機体でした。

そこで民間機ではしない傾斜角 45度を超える急旋回をしたり、急降下の姿勢から急激に機体を引き起こしたりと、いわゆる G (Gravity force、重力、加速度)を機体に掛けて車輪をなんとか出そうと努力しましたが、効果がありませんでした。写真はクリックで拡大。

機長の S 氏は片側の主車輪と機首車輪の二つで緊急着陸するつもりでしたが、そこは指揮命令系統が厳しい自衛隊のことゆえ、機長の判断を超越して隊長から胴体着陸をするように命じられました。

最近はあまり流行らなくなりましたが、当時は何かといえばすぐに消防車が、泡沫消火剤を滑走路に散布して胴体着陸をさせました。しかも泡沫消火剤というのは滑走路面に散布してから時間が経つと泡が消滅したり、夏場など熱い滑走路面ではすぐに乾くので、事前に散水してから泡沫を散布するなど手間がかかりました。

S2fm 接地予想地点から長さ二百 メートル にわたり泡沫消火剤を散布しましたが、胴体着陸をする前にもう一度だけ、飛行機を急降下から引き起こす操作をすることになりました。その飛行機には過度の G (重力、加速度)が機体に掛かるのを防ぐ為に、 G  リミッター(重力制限装置)という安全装置が操縦桿に装備されていましたが、それを解除して急降下の姿勢から急激な引き起こしをしました。すると幸運にも主車輪が出たではありませんか。

ところが困ったことに滑走路上には 五 センチ の厚さの泡沫が、長さ二百 メートルも散布されていて、着陸時に車輪が滑るので取り除く必要がありました。すでに燃料はぎりぎりの量まで消費してしまったので時間との競争でした。基地の自衛隊員が総出で泡を取り除いた滑走路に、彼は無事に着陸できました。

加速度や重力の大きさを示す単位に Gravity (重力)の頭文字をとった G がありますが、計器板にある G メーターの示度をみると  3.5 G (つまり重力の三.五倍)を示していたそうです。

Gmeter 金野氏も昔 アメリカで大型の対潜水艦哨戒機に乗る前にこの飛行機に乗り、  F C L P ( Field Carrier Landind Practice 、 地上での模擬着艦訓練)をしたことを思い出しましたが、その際には接地点を狙って飛行機を滑走路面に叩き付けるので、毎回 2.5 G の加速度が機体にかかりました。 離陸前の チェックリストにも パンチ・G メーター( Punch G meter )という項目があり、写真にある計器の左下にある ボタン を押し込んで(パンチ)して、示度(写真では +2、-0 G )を リセット して離陸しました。

Fclp 現在では コックピットの前方 ガラスに情報が映る、光学式空母着艦装置( Carrier Optical Landing System )を使用しますが、当時は写真にある、降下角を パイロットに示す進入角指示装置を用い、傍には L S O ( Landing Signal Officer 、着艦係り士官)がいて、不安定な進入状態の飛行機には、ウエイブ・オフ( Wave off、やり直し )を指示していました。

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コメント

毎回興味深く読ませてもらっていますが、最近では胴体着陸時に、泡沫を滑走路にまかなくなった理由は何でしょうか?。

コメント欄では写真の掲載ができませし、回答が多少長くなりますので、次回のブログ記事欄でお答えすることにします。

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