ダイヤモンド と 石
私は米国 フロリダ州、ペンサコラ にある米国海軍飛行学校で、約二年間 パイロットになる訓練を受けました。米海軍の飛行学校では、最初は単発の初級練習機に教官と一緒に乗り、十二時間の飛行訓練を受けても単独飛行の実地試験に合格できなければ、操縦適性無しと判断され、訓練生を クビになりました。写真はクリックで拡大。
自動車教習所の運転免許の講習では、規定の講習時間で規定の レベルに達しない者は、車の運転適性に欠ける証拠ですが、教習所は営利企業なので補習の料金を払えば、何時間でも運転講習を買うことができます。しかし米海軍では納税者の税金( Taxpayer's Money )なので、適性の無い者は直ぐに クビになりました。.
その後は馬力のある中級練習機、双発機、実用機と順に飛行機を乗り換えて、宙返り、錐 モミ などの アクロバット飛行、編隊飛行、計器飛行、無線航法、天測、推測航法などの訓練科目ごとにある実地試験に不合格にならずに終了すれば、晴れて海軍の パイロットの資格である ウイング・マークを制服の胸に着けることができました。その資格を手にした者は、飛行訓練開始時の約 二十 パーセントに過ぎませんでした。写真は丁度 五十年まえ(1957年、昭和32年)の私ですが、機体の星のマーク (米軍機)に注目。
ところが パイロット訓練生が 一人も クビにならず、百 パーセント パイロットになれるという、世界でも極めて珍しい飛行教育施設があるのをご存じですか?。それは宮崎県にある民間 パイロットを養成する航空大学校です。そこでは入学試験として受験生に15分程度操縦桿を握らせて、飛行機を操縦させて適性を判断するそうですが、それで操縦適性が本当に判断できるとすればまさに神業で、世界各国で軍隊の飛行学校が マネをするはずですが---?。
現在では独立行政法人ですが、それまでは運輸省( 現国土交通省に統合 )航空局乗員課の管轄でした。そこでは操縦適性の無い学生を クビにすると、航空大学校の予算が余るので、クビにすべきでないという、如何にもお役所らしい考え方から、何十年もの間 操縦適性に欠けた者を一人も クビにせずに、日本の航空界に パイロットとして送り出してきました。
高い費用をかけて飛行訓練をしながら適性の無い者を淘汰しなくても、パイロットの適性を早期に知る方法はないものかと、昔から心理テストの導入などが考えられてきましたが、結局は飛行訓練の過程でしか判断できないという結論になりました。
日本の旧海軍には骨相学の大家がいて、パイロット訓練生の人品骨相を見て、適性の有無を判断したといわれていますが、この方法が有効だったかどうか不明です。この人の操縦適性など、骨相から いかがでしょうか?。
いずれにしても パイロットには適性が最重要であることは間違いなく、適性の無い者が飛行機に乗ると事故につながります。
ところで尼崎で起きた福知山線の脱線事故の運転士は、乗務経験 十一ヶ月で過去に何度も オーバーランの前歴があり、事故の当日も直前の伊丹駅で 72メートルの オーバーランをしたため、伊丹駅を1分20秒遅れで出発しました。
事故が起きた カーブの制限時速は 70 キロでしたが、事故調査委員会の発表によれば時速 116 キロで通過し、46キロの速度 オーバーで通過したために列車が脱線しました。
運転士としての適性がなく、本来運転士にするべきではない者を 運転士にしたのが、事故の根本原因でした。以前述べましたが、古くから軍隊や自衛隊のパイロットの養成現場で言われていた言葉に、
たとえ ダイヤモンドを捨てても、石は拾うな。
というのがありましたが、操縦適性のある者をたとえ間違って クビにすることがあっても、適性に欠ける者を 絶対に パイロットにしてはならないという戒めの言葉でした。