名前だけの管理職
ハンバーガーチェーン 「 日本 マクドナルド 」 の熊谷店 ( 埼玉県熊谷市 ) 店長、高野広志さん ( 46 ) が名前だけの管理職にされ、時間外手当を支払われないのは違法だとして、同社に未払い残業代や慰謝料など計 1,350万円の支払いを求めた訴訟を起こしました。東京地裁は1月28日に、マクドナルドに対して 約 755万円の支払いを命じましたが、裁判官は 「 職務権限や待遇から見て、店長は管理監督者に当たらない 」 と理由を述べました。
金野内蔵氏から聞いたところによれば、これと似たような管理職制度の悪用事件が、かつて航空業界にもあったそうです。当時政府が半分以上の株式を所有していた、半官半民の日本航空では官僚主義と 親方日の丸 ( 中国語で、鉄飯椀 ) つまり所属する会社はつぶれず、従って メシを食いはぐれることは決して無いという意識から、社内には 宿痾 ( しゅくあ、長年続く持病 ) ともいうべき 労使紛争が絶えませんでした。
そこでは労働組合が七つもあり、スチュワーデスの客室乗務員組合も、労働側と会社側の二つの組合に分かれていました。
当時多発した乗員組合の抜き打ち時限 ストに対処するため、日本航空は昭和45年 ( 1970年 ) 八月に、機長全員を管理職に発令するという前例の無い計画を実施し、事実上機長の組合活動を封じ込めました。
そのため機長全員が乗員組合から離脱し スト権も剥奪されて、乗員組合は副操縦士だけの組合となりましたが、会社の狙いどおりに組合の弱体化が進み、会社の意向を受けた第二組合も誕生しました。
この労務対策がもたらしたものは、飛行機の運航中に最も大切な機長、副操縦士間の意志の疎通を欠く事態であり、乗員同士の不信感の造成、協調性の喪失、人心の荒廃でした。
職場における不協和音が パイロットの精神状態にも悪影響を及ぼし、その結果いわゆる JAL の 「 連続飛行機事故 」 が起きましたが、写真は インド、ニュー・デリー郊外の ジャムナ河畔にある、不可触賤民 ( アンタッチャブル ) の部落に墜落した機体の、垂直尾翼に描かれた 鶴のマークですが、事故の多さから 死の鳥 と言われました。
負傷者が出ただけの小事故を除いて、死者が出た大事故だけを挙げますと、
1:昭和47年6月 ( 1972年 ) インド、ニューデリー墜落事故、死者、86名
2:同年11月、モスクワ、シェレメチェボ空港、副操縦士の操作ミスで墜落、死者、62名
3:昭和 52年 ( 1977年 ) 1月、アンカレージ、DC-8型貨物機の機長の酒酔い操縦で、離陸直後に墜落、死者、5名
4:同年9月、クアラ・ルンプール、高度の確認をせずに墜落、死者、34名
5:昭和57年 ( 1982年 )、羽田空港、精神病の機長による意図的墜落、死者24名
6:昭和60年 ( 1985年 )、御巣鷹山墜落、死者、520名
が起きましたが、六件の大事故の死者の合計は 731名 で、その同じ期間に、全日空では昭和46年 ( 1971年 ) に宮城県雫石 ( しずくいし ) 上空の航空路で起きた、戦闘訓練中の自衛隊ジェット機との空中衝突で、死者162名の事故を出して以来、今日に至るまで三十年以上死亡事故は ゼロでした。
あまりの事故の多発に日航の社長が何人も交代し、運輸省高級官僚の天下りや社内の主流派でした労務畑出身者からではなく、民間人の社長を据えた結果、機長の総管理職制度は廃止され、機長も機長組合を作ることになりました。
かつては船長と同様に、機長といえば飛行機や乗客の安全に対して全責任を負う反面、機内では絶対の権威と指揮権を持ち、副操縦士以下は徒弟制度における徒弟 ( とてい、親方のもとで技術を習得する でっち小僧 ) 的存在で、 「 カラスは白い 」 と機長がいえば、 「 白い 」 といわざるを得ませんでした。
写真の自信に満ちた機長は、計器板の下部に足を乗せてふんぞり返っていますが、副操縦士もこのような態度を取れるわけでは決してありません。 同じ パイロットでも 半人前 ですから。
しかし二十年以上前から、操縦室内で職務をおこなう人々の能力を有効に発揮させ、活用することこそ、人的 ミスを無くし飛行機の安全性向上につながるとする、 CRM ( Crew Resource Management 、乗組員の人的資源を有効活用する運用技術 ) の考えが生まれました。
機長は乗客の安全に対して最終的責任を負うものの、もはや徒弟制度における封建的親方ではなく、部下の持つ能力を引き出して安全運航に役立てる マネージャー や、 コーディネーター ( Coordinator 、調整者 ) としての能力が不可欠になり、それを持つことが機長としてのあるべき姿になりました。
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コメント
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新千歳空港・・・機体が凍るあせり?、視界500mとか、まさに背筋の凍る思いです。
投稿: Y.S | 2008年2月18日 (月) 12時12分
最近の JAL の広告では、航空連合の ワンワールドへの加盟を機会に、 「 高品質な サービス 」 を しきりに宣伝していましたが、また JAL か という感じがしています。
次回の ブログ では、この問題を取り上げることにします。
投稿: Y.O. | 2008年2月18日 (月) 13時09分