新千歳空港の場合(その1)
2月16日午前10時33分ごろ、北海道・新千歳空港の B 滑走路 ( 二本あるうちの東側、長さ3000 メートル )で、羽田行き日本航空 502便 ( ボーイング747―400型機、乗員乗客 446人 )が、管制官の許可を得ずに離陸の滑走を始めました。
同じ滑走路上には、着陸したばかりの別の旅客機がいたため、管制官が離陸中止を指示し、502便は緊急停止しました。当時の B滑走路は視界が 約500 メートルで、ほとんど前が見えない状態でした。
金野内蔵氏の占いによれば、今回の インシデント ( Incident 、出来事 ) の責任の所在は、機長が九割であり、管制官にも一割の責任があると出たそうです。
[ 1:管制指示への復唱の欠如 ]
今回の インシデント は まかり間違えば、 カナリア諸島における濃霧の テネリフェ空港で起きた死者 583名という、航空史上最悪の航空事故のような事態が起きるところでした。詳しくは
http://good-old-days.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/index.html
を クリックして2007年5月29日の ブログ、「 6352対762 」 を御覧下さい。
その教訓から従来からの管制承認 ( ATC Clearance ) の復唱だけでなく、離陸、着陸許可、滑走路の横断許可、滑走路の手前で待機、離陸位置に進入して待機などの安全に直接かかわる重要な管制許可、管制指示は、要点を必ず 「復唱する」、「復唱させる」 習慣が確立しました。
ところで去年の10月23日に関西空港で起きた危険な事態と、今回の新千歳空港の件は共通の原因がありましたが、パイロットによる管制交信の聞き違えと、管制指示が パイロットに正確に伝わったかどうかの確認を、管制官が怠った結果でした。詳細は下記 ブログ、2007年10月23日の 「 管制官にも責任 」 を参考にしてください。
そこには ロサンゼルス国際空港における管制官と パイロットとの、多忙な交信の遣り取りがありますが、パイロットが 「 Clear for take-off 、Delta1484 、デルタ航空1484便は離陸支障なし 」のように、安全上重要な部分には自機の コールサイン ( 呼び出し符号 )を付けて、簡潔に 「 復唱する 」 様子が分かります。
http://good-old-days.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/index.html
新千歳空港における交信 テープの内容が公表されず、断片的で しかも内容の異なる新聞報道に頼るしかありませんが、管制官が 502便に、( 離陸許可が出たら )速やかに離陸できるよう 「 準備せよ 」 と書いた新聞もあったし、別の新聞では 「 予想せよ 」 と書いていました。
写真は空港の北側から撮ったものですが、今回の インシデントは赤矢印の滑走路で起きました。滑走路標識が通常の白色ではなくオレンジ色で塗装してあるのは、積雪地帯の特徴です。
金野氏によれば航空管制の交信は英会話ではなく、簡潔、明瞭な符丁のやりとりだそうですが、管制交信の内容を推測してもらうと、以下のようになるのだそうです。
管制塔: Japan Air 502, succeeding traffic is 6 miles on final , taxi into position runway 1 R. Stand-by (もしくは、 Expect )immediate take-off , landed aircraft still on the runway,
[ 日航502便、後続機は最終着陸経路の 6 マイルにあり、滑走路 1 ライト ( 磁方位 10度の右側滑走路 ) に入り 離陸位置につけ、即時離陸の準備をせよ ( または予想せよ )、 着陸した飛行機が滑走路を走行中 ]。
パイロット:Japan Air 502, roger ( 日航502便、了解 )
この交信の後に、機長は離陸を開始しましたが、正しい復唱は
Japan air 502, taxi into position . ( 日航502便、滑走路に進入し、離陸位置につく )
でしたが、こう復唱すれば機長も自分の誤解に気付く はずでした。無線交信を担当したのは見習副操縦士でしたが、だからこそ指導に当たる機長や、操縦室の後席に座って バックアップが役目の正規の副操縦士は、見習いの一挙手一投足、や交信内容に注意を払うべきでした。
金野氏によればこの見習副操縦士は 「 ラジャー・パイロット 」 に違いないとのことでしたが、ラジャー ( Roger ) とは航空管制用語で 「 了解 」 の意味だそうです。
彼が管制指示の復唱をしなかったのは英語の指示が理解できず、復唱したくても 「 できなかった 」 からであり、多分機長が了解しているに違いないので、自分が理解していなくても ラジャー 「 了解 」 を送信した無責任さからでした。そういう 未熟な副操縦士 ( 見習 ) のことを皮肉と軽蔑を込めて、 ラジャー・パイロットと呼ぶのだそうです。
管制塔からの送信内容が理解でききなければ、上の写真にある管制塔に 「 Say again 、もう一度言ってくれ」 を言い、「 恥を忍んで ( ? ) 」 何度でも聞き返すことが、無線交信を担当する彼の職務であり、事故防止のうえからも基本的でなことでした。
機長も管制指示の最も重要な部分の 「 スタンバイ 、Stand-by ( 準備せよ、別の新聞記事では予想せよとあるので、その場合の英語は Expect )」 を聞き逃してしまい、次に続く 「 Immediate take-off 、即時の離陸 」 だけを聞いたことから、離陸を開始した責任は重大でした。( 続く )
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コメント
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金野氏の想像のような交信内容の最後に”landed aircraft still on the runway”が付加されていて、これを聞き逃したとすると犯罪的な英語の聞き取り能力で、即パイロットを辞めてほしいですね。
ただ、Expectを聞き逃したとするとImmediate take-offだけの聞き間違いは考えられますよね。パイロットに同情すべき事情もあります。
管制官がtaxi into position and hold.と指示すれば、間違わなかったと思います。
通常パイロットはinto position and hold と聞くと、直ちに離陸できる準備をすると思いますが、いかがでしょうか?
まお、一般社会でも間違いが発生する指示の仕方は避けるべきなので、簡単な英語で指示を出す管制英語はできるだけ聞き間違いのないように明確な指示を出すべきと思います。
この件は大きなニュースになりましたが、もしこのままJAL機が離陸しても、衝突する可能性は大変少なかったと思います。
離陸機が500m滑走したとき、両機の距離は1800mだったと報道されました。ということは衝突点まで離陸機は2300mも滑走できたので、衝突点で十分な高度を確保できたのではないでしょうか?
仮に十分な高度を確保できなくても、着陸機は誘導路に出ている可能性が高かったのではないでしょうか?
時々、着陸機が滑走路から高速脱出路に十分でていないのに見切りで離陸許可が出ているとなと感じることがあります。これは無線マニアの勘違いなのでしょうか?
無線マニアとしては、もっと危険と思ったのは福岡でヘリコプターへの離陸許可をアシアナ航空が自機への離陸許可と取り違えて、離陸した事件がこの千歳空港事件の後、ニュースになりましたが、この機のパイロットはどのような耳を持っているのでしょうか? cleared for take-offまで聞いて、自機のコールサインを聞いていないとしか思えません。
これは、大変危険でコールサインを聞き逃すととんでもないことになります。この場合、空中衝突の危険がありました。
管制官からの回転翼機に対して離陸許可が出た後、アシアナ航空機のパイロットから復唱が混信したようなので、聞き間違いを管制官が訂正できなかった不幸があったようですが、通常、定期便でな航空機の場合、JA(ジュリエットアルファ)7XXXと航空機を区分する登録記号がコールサインになり、必ず付けるので間違えようがないのですが、パイロットがちゃんと聞いていないとしか思えません。
ひょっとしたら、回転翼機の登録番号の下4桁がアシアナ航空の便名と一致したのかもしれませんね。(有り得ないと思いますが)
まあ管制官のなかには発音がひどい人がいるので聞き取りにくいとおもいますが、パイロット二人でちゃんと聞いてほしいものです。
投稿: 無線マニア | 2008年2月25日 (月) 22時54分
[ その1 ]
taxi into position and hold とすれは間違いは起きなかったについて。
交信テープの内容が公表されないので、実際の管制指示がなんと言ったのかは不明ですが、
お説のような 「 文言 」 をパイロット側が 「 正確に受信 」 していれば、間違いは起きなかったと思います。
Before take-off check list ( 離陸前の チェックリスト ) は通常滑走路の手前までに終了し、あとは スチュワーデスへの離陸合図の チャイムを鳴らするだけにしておきます。
[ その2 ]
離陸機と着陸走行中の飛行機の間隔が1800 メートルあったから、離陸機は上昇でき、両機に衝突の恐れはなかったとする件について。
B-747-400 の機体重量、積雪滑走路の状態などにより性能上着陸機を上方に クリアでき、あるいは高速誘導路へ離脱できたかどうか、私には分かりません。なぜならその考えは飛行機の エンジンは故障しないという、前提条件でしか成り立たないからです。
パイロットは離陸に際して毎回 エンジン故障を予想し、それに備えますが、離陸決心速度の V-1 ( たとえば150 ノット、秒速 75 メートル ) の手前で エンジン故障が起きたら当然離陸を中止します。積雪滑走路では停止距離は非常に伸びますし、V-1以後で故障すれば離陸を続行します。その場合はエンジン故障のため、上昇率は当然悪くなります。
[ その3 ]
見切り発車について、
Clear for take-off を管制官が言ったと同時に飛行機がころがり始めるわけではなく、エンジンの スロットル・レバーを少し前に出して出力を安定させ、異常がないことを確認した後に ブレーキを緩め、 フル・スロットル ( 離陸出力 ) まで進めます。この間に多少時間がかかるので、着陸機が ハイスピード・タクシーウエイに入るのを見越して、離陸許可を出す 「 見切り発車 」 があるかもしれません。
投稿: Y.O. | 2008年2月26日 (火) 12時10分