« 冬期運航の危険 | トップページ | 鎮魂録 »

2008年3月29日 (土)

墜落事故の原因

これまで長々と説明してきましたが、そろそろ結論にします。

[ 1:エンジン出力計のエラー ]

Overhdp ジェット・エンジンの出力 ( 換言すれば推力、Thrust ) を知るには、 コンプレッサー ( 空気圧縮機 ) 入り口の吸入圧力と、排気 タービン出口の圧力との比率を示す計器である、 イーパー ( EPR, Engine  Pressure  Ratio ) の値から読み取ります。Epr

これまで何度も述べたように、事故機は着氷する気象状態で エンジン防氷装置を作動させていませんでしたが、事故の原因はすべてここから始まりました。



Probe ジェット ・ エンジン先端内壁にある、吸入空気圧の 受感部 ( センサー、Sensor ) が着氷により塞がれてしまったために、EPR の示度が過大表示となり、離陸に必要な エンジンのパワーが十分に出ていないにもかかわらず、イーパー ( EPR ) の計器には 100パーセントの出力を表示してしまいました。黄色の円内は吸入空気圧の測定 センサー。

[ 2:離陸中止の決断をせず ]

離陸の際に操縦を担当した副操縦士は、離陸滑走中に出力 レバーの位置が通常と異なることから、イーパー ( EPR ) 計器の異常に気づきました。

15時59分58秒、[副操縦士]、オヤ  あれ ( EPR ) を見てくれ、正しいようには見えないが、どうですか?。正しくないけど。
16時00分09秒、[機長]、そのようだ。スピード、 80 ノット ( 秒速 40 メートル ) を通過。
16時00分10秒、[副操縦士]、今や ( EPR ) は正しいとは思わない。ウーン 正しいかもしれない。
16時00分21秒、[機長]、スピ-ド、 120 ノット ( 秒速 60 メートル ) を通過。
16時00分23秒、[副操縦士]、私には分からない。

エンジン計器の指示の異常に気付きながら機長は離陸中止の決断をせずに、漫然と飛行機を離陸させてしまいましたが、これが第二の事故原因でした。

[ 3:主翼の着氷 ]

Tsuraraa 事故機の生存者によれは、誘導路から離陸位置に向かう際には主翼に雪が積もっていましたが、除氷から 50分以上経過していたので、本来であれば機長は ゲートに戻り、再度除氷すべきでしたが、彼はしませんでした。これが第三の事故原因でした。

離陸滑走がはじまって 45秒後に、機が離陸速度に達すると不意に機首が持ち上がりましたがそれと共に、操縦桿が小刻みに振動して、パイロットに飛行機が危険な失速状態に近づきつつあることを示す スティック ・ シェイカー ( Stick Shaker 、失速警報装置 ) が、ブル ブル ブル と作動し始めました。操縦室内の音声録音 ( Cockpit Voice Recorder ) によれば

16時00分:39秒、失速警報装置の作動音が始まり、衝突するまで続く。
16時00分:41秒、[ 管制塔 ]、パーム90 ( 事故機のコールサイン ) 出発管制と交信せよ。

ちなみにどの機種であれ、失速警報装置が作動した際の回復操作とは、機首を下げて、エンジンに フル ・ パワー ( 最大出力 ) を加えることです。

16時00分:45秒、[ 機長の声 ]、操縦桿をゆっくり前へ、前へ、我々は 500 フィート ( 150メートル ) の高度が欲しいだけだ。
16時00分:48秒、[ 機長の声 ]、操縦桿を前へ、前へ、ほんの少し上昇するだけでよいから。
16時00分:59秒、[ 機長の声 ]、失速している、我々は落下している。
16時01分:00秒、[ 副操縦士の声 ]、ラリー ( 機長のこと ) 我々は墜落していく、ラリー。
16時01分:01秒、[ 機長の声 ]、わかっている。
16時01分:01秒、衝突音

Tail 事故機の パイロットは離陸後から墜落までの 22秒の間に、エンジンの出力を コントロールする スラスト ・ レバー ( Thrust Lever  ) を少しも動かしませんでしたが、私なら たとえ エンジンが壊れるのを覚悟のうえで、最大出力を得る為に スラスト ・レバー( Thrust Lever ) を最前方まで ( 車でいうならば アクセル ・ ペダルが床に着くまで踏み込んで ) 動かして、失速からの回復操作をしたでしょう。 

事故調査によれば、このとき主翼前縁と スラットに氷が張り付き、それが離陸直後の突然の機首上げの原因となったことが分かりましたが、ある実験 データによれば、飛行機の翼に 0.8 ミリ の氷が張ると、空気抵抗が増すために、揚力を 25 パーセント失うのだそうです。

Deiceb 今回の エア・フロリダ 90便の事故原因は前述のごとく、年齢の若い パイロットによる冬期運航の経験不足、知識不足が最大の原因でしたが、この事故が原因で エア ・ フロリダ 航空は二年後に倒産しました。

« 冬期運航の危険 | トップページ | 鎮魂録 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 墜落事故の原因:

« 冬期運航の危険 | トップページ | 鎮魂録 »