不時着 ( 水 )、( その1 )
不時着 ( 水 ) とは飛行機が緊急事態に遭遇した場合に、通常では着陸しない場所に、
1 : 意図的に
2 : 飛行機が コントロール ( 制御 ) 可能な状態で
3 : 着地や、着水することをいいます。
昭和 43年 (1968年 ) に起きた日航機 ( DC-8-62 ) の サンフランシスコ湾への着水事故は、濃霧の滑走路へ I LS ( Instrument Landing System 、計器着陸装置 ) を使い進入中に事故が起きました。( 以下、写真は クリックで拡大 )
アメリカの N T S B (国家運輸安全委員会 ) の事故報告書によれば、機長が飛行計器の正しい使用法を知らなかったのと、滑走路を視認するまでは進入限界高度の 211 フィート ( 64 メートル ) 以下に高度を下げてはいけないにもかかわらず、それを守らなかったのが事故原因でした。
機長は I LS の電波に乗った 「 つもり 」 で着陸のために高度を下げていきましたが、実際には電波に乗ってなく、しかも高度計への注意を怠ったために、気が付いた時には滑走路から 5 キロ も手前の湾内に着水してしまったのでした。
これは意図的に着水したわけではないので、不時着水の範疇には入りません。写真は サンフランシスコ 国際空港で、事故機は赤矢印の コース で着陸するはずでした。
金野内蔵 氏から聞いた話によると、縄文航空では以前は西海岸にある サンディエゴ、後に サンフランシスコ を基地にして、B-727 の飛行訓練を米国の航空会社に委託した時期がありましたが、チェック ・ パイロット ( Check Pilot 、査察操縦士、乗員の実地試験や審査をおこなう パイロット ) をしていた金野 氏は、サンフランシスコ 空港には詳しいのだそうです。
空港の東側から進入する I LS コース は陸地の近くを通り、そこの水深が幸運にも 3 メートル しかなったので、着水した日航機は車輪が海底に着き機体は沈没せずに済み、乗客の脱出も無事におこなわれました。
この事故に対して 旧航空庁長官から天下りをした日航の松尾社長は、 「 神業 ( かみわざ ) の上手な着水だった 」 と機長をほめましたが、他社の パイロット からは、「 神業で事故を起こしたのか?。 」 と嘲笑されました。
写真は当時の サンフランシスコ の新聞に掲載されたもので、乗客も沈まない飛行機からの脱出で余裕たっぷりでした。
ちなみに航空輸送の安全維持を担当する、アメリカの F A A ( Federal Aviation Administration 、連邦航空局 ) の機体の構造に関する規則によれば、飛行機は乗客のすべてが安全に脱出できる十分な間、浮かんでいるように設計する必要がありましたが、後述する パンナム の B-377 型機の場合には、着水から 11 分後に沈没しました。
エンジン故障、燃料切れなどの緊急事態から不時着 ( 水 ) する民間航空の ジェット 機は毎年のようにありますが、その中で陸上飛行機が意図的に水上に不時着水することを、航空用語では デッチング ( Ditching ) といいます。
これまで トランス ・ パック ( trans Pacific 、太平洋横断 ) 飛行や トランス ・ アトランティック ( trans Atlantic 、大西洋横断 )飛行をするような国際線の飛行機が、洋上に不時着水した例などは、めったにありませんでした。
昔 プロペラ 機の時代の昭和 31 年 ( 1956年 ) に、パンアメリカン 航空の ボーイング 377 型 ストラト ・ クルーザー ( Strato-cruiser ) が 、サンフランシスコ と ハワイ の中間地点で第 1 エンジンが故障し、その後さらに第 4 エンジン が故障しました。
当時 北緯 30 度、西経 140 度の太平洋上の地点には、気象の定点観測をおこなうと共に、 ハワイ と北米西海岸の都市とを結ぶ航空路を頻繁に飛行する航空機の為に、無線電波を発射して航法を援助し、緊急時における航空機の S A R ( Search And Rescue 、捜索救助 ) も兼ねて、米国沿岸警備隊の 気象観測船 ( Ocean Weather Station Vessel ) が常時待機していました。
故障機は夜明けまで船の上空で旋回を続け、明るくなってからその船の傍に不時着水して、乗客乗員 31 名全員が救助されました。
沿岸警備隊の船上から撮影した不時着水の実写 フィルムを、アメリカ 海軍飛行学校かどこかで不時着水教育の際に見せられましたが、長距離を飛ぶ民間航空の プロペラ 機が、洋上に不時着水した際の唯一の映像でした。
当時の プロペラ 機には自動車と同様に ピストン ・ エンジンを搭載していましたが、一説によれば現在の ジェット ・ エンジン は、ピストン ・ エンジン に比べて 50 倍も信頼性が向上 しているそうで、太平洋を横断する ジェット 旅客機が洋上に不時着水した例などは、それ以後 50 年以上も聞いたことがありませんでした。( 続く )