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2008年7月19日 (土)

CAT ( Clear Air Turbulence )、晴天乱気流

F86f 乱気流による BOAC ( 現 ・ BA、英国航空 )機 の墜落事故が起きる丁度  4  年前の、昭和 37 年 ( 1962 年 ) 3 月 17 日のこと、九州にある航空自衛隊基地を飛び立った F- 86 F 戦闘機の 4 機編隊が、南 アルプスを越えて高度を徐々に下げながら、富士山の北側を通り埼玉県の入間基地へ向かっていました。

編隊が富士山頂から北北西 16 キロ の地点にある西湖の上空 5,470 m ( 18,000 フィート ) の地点で、突然 4 機とも激しい乱気流に遭遇したために、編隊は ばらばらになりました。そのうちの 2 機は エンジンが フレームアウト ( Flame Out 、燃焼停止 ) したために、パイロットは機体から  ベイルアウト ( Bail Out 、パラシュート脱出 ) してことなきを得ました。

Saiko この CAT ( 晴天乱気流 ) はi富士山によるものではなく、多分 ジェット気流 ( 強い西風 ) の乱れにより生じたものと私は想像します。その理由は 「 西湖上空で乱気流に遭った 」 とする報告がもし正しければ、地図で西湖と富士山の位置関係を確認して下さい。

Sangakuha 富士山による乱気流は 常に風下側 ( 東側 ) で起きる ので、それによる乱気流が原因とするならば、その当時は富士山に当たる風が南風 ( 南から北へ ) が吹き、しかも ジェット気流並みの強さで吹いていなければなりません。つまり 3 月だというのに、台風でも来ない限り、そのような風向風速の強風など、常識では到底あり得ない話です。写真は風洞実験の写真で、富士山による乱気流の様子を見事にとらえています。

CAT について一般的なものは、 ジェット 気流によって生じるものが殆どですが、発生場所としては ジェット ・ コア ( Jet Core 、ジェット気流の中心付近、つまり最速部分 ) の下側で起き易いといわれています。

300hp ちなみに パイロットが ジェット気流の位置を知るのに一番よく使う、300 ヘクト ・ パスカル ( 高度 3 万 フィート、約  9 千  メートル ) の高層天気図 ( 2008 年 7 月 18 日 21 時、日本標準時 ) を掲載しておきますが、日本列島の位置が分かり易いように、私が赤く色を塗りました。これを見ると当日の亜熱帯 ジェット ( Sub Tropical Jet ) 気流の位置が、本州よりも北側にあり、北海道付近を流れていることが分かります。

Jetpos 亜熱帯 ジェットという言葉が出たついでに、地球規模での大気の循環と、ジェット 気流の位置についての図を見てください。北半球においては ジェット気流の勢力は夏には弱くなり北上し、冬になると勢力が増し、南下する傾向があります。この図から. 圏界面 ( 対流圏と成層圏の境界 ( Tropopause ) の高さが極地方では低く、熱帯地方で高くなることが分かりますが、このことは入道雲の発達する高さに関係してきます。

ところで昭和  39 年 ( 1964 年 ) のこと、アメリカで テスト飛行中の B-52 型 戦略爆撃機が CAT ( 晴天乱気流 ) に遭遇し、機長は操縦困難になったので、クルー に脱出の用意を命じ、脱出し易いように、速度を下げて高度を 5,000 フィート ( 1,500 m )  まで降下しましたが、ここで運よく機体の コントロールを回復することができました。

B521964 Emergency Interception & Escort ( 緊急会合および エスコート ) を要求したところ、やって来た F-100 型戦闘機の パイロットが見た B-52 の姿とは、垂直尾翼がとれた 機体でした。頑丈な軍用爆撃機でさえも、CAT  により機体に重大な損傷を受けましたが、民間の旅客機であったならば 恐らくより大きな損傷を受け、あるいは空中分解したかも知れません。

見えない空の恐怖である CAT には パイロットだけでなく、乗客もくれぐれもご用心を。飛行中に座席 ベルト着用 サイン が消えるとすぐに ベルトを外す人や、着陸するとすぐに外す人がいますが、それらは空の旅の初心者です

便乗 ( Dead Head 、非番、 Off Duty ) の パイロットや スチュワーデスが客席で移動する場合には、決して座席 ベルトを外しませんが、何が起きるかも分からない、大空という自然を相手にする怖さや、人間とは ミスを犯す動物であることを十分知っているからです。

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コメント

こんにちは
私のFlickrのcontactの一人、香港のパイロットが最近(7月8日)投稿していました。
彼が撮影した写真がメデイアに載ったようですが、肉眼で見えるのですか?

ATSB-AR-2008-034
http://www.flickr.com/photos/downintheblue/2648283457/
Smooth Air - Wake turbulence
http://www.flickr.com/photos/downintheblue/375157778/

実は私も初めて見る、めずらしい コントレール ( Contrail ) の写真でした。

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