入道雲の恐怖
平成 20年 6月 21日午前10時5分ごろ、熊本市上空 高度 5,000 メートルを飛行中の福岡発鹿児島行き日本 エアコミューター ( JAC ) 3643便 ボンバルディア DHC 8が、機体に落雷を受けました。同機は飛行を続け鹿児島空港に着陸、乗客乗乗客乗員 70人に けがはありませんでした。
機体を点検したところ、右尾翼の昇降舵に約 1・5 センチ四方の欠損や、胴体の外板を止める約 20本の金属製の 鋲 ( びょう ) に損傷がありました。修理のため、同機を使う予定だった鹿児島-福岡、鹿児島-大阪の 1往復ずつ計 4便が欠航になり、乗客計約 200人はほかの便などに振り替えました。
九州、山口県が今月 6日に梅雨明けし、近畿地方でも梅雨明け間近になりましたが、梅雨が明けるといよいよ夏本番となり入道雲の シーズンになります。朝から気温がぐんぐん上昇し、強い日射で地面が熱せられて空気が上昇し、午後になると近畿では鈴鹿山脈、四国では四国山脈、関東では関東平野の北部にある 我がふるさと、栃木県の日光連山などの山岳地帯では、熱雷と呼ばれる 雷雲 ( 入道雲 ) が局地的に発生し易く、パイロットを悩ませます。
入道雲が パイロットに恐れられる理由は三つありますが、
1:乱気流
2:雹 ( ひょう、Hail stone )
3:落雷です。
[ 乱気流 ]
乱気流には大別すると雲の中で遭遇するものと、雲が無い晴天の大気中で遭遇する晴天乱気流 ( CAT 、Clear Air Turbulence ) の二種類があります。別の表現をすれば肉眼による雲の存在や操縦席の気象 レーダーなどにより、予め揺れる空域が目に見えるものと、CAT のように レーダーにも映らず、空気の乱れの空域が目に見えないものもあります。
入道雲の内部で発生する上昇気流や、それを補う形ですぐ近くに存在する下降気流などによる乱気流は強烈で、垂直速度が 秒速 20~30 メートルに達するものもあるといわれていて、これにまともに巻き込まれた飛行機は、空中分解することでしょう。
肉眼では見えない晴天乱気流 ( CAT ) による空中分解の実例としては、昭和 41年 ( 1966年 ) 3月5日、羽田発 ホンコン経由 ロンドン行きの英国海外航空 ( BOAC、現在の BA ) 911便 ボーイング 707型機が、羽田空港を離陸して約 15分後に、富士山上空付近の高度 15,000フィート ( 4,500 メートル ) を飛行中に空中分解し、富士山麓の太郎坊付近の森林に墜落しました。この事故で乗員11名、乗客113名、計124名全員が死亡しました。
写真の白い煙は、事故機の主翼から エンジンが脱落し、燃料 タンクから漏れ出した燃料だといわれています。
原因は ジェット気流 ( 強い西風 ) が 独立峰である富士山に当たって生じる乱気流の怖さを、ドブソン ( Dobson ) 機長が知らなかった からでした。羽田空港を離陸後に乗客に対して富士山をよく見せるために、計器飛行から有視界飛行に切り替えて、富士山のすぐ近くの風下を飛行したために、機体の設計強度を上回る、強烈な富士山の乱気流に遭遇した結果でした。
ちなみに ボーイング707型機の主翼は、約 6.4G ( G は加速度の単位で重力の 6.4倍 )、胴体は約 5.6G の加速度により破壊するところ、事故機は 7.5 G ( 重力の 7.5倍 ) の加速度を受けたために破壊したのでした。
輸送機の場合、図の上向きの突風を受けた [ プラス ] の場合と下向きの突風を受けた [ マイナス ] の場合の 制限荷重倍数 を示しますが、これに 安全係数の 1.5 を掛けた値が、()内の終極荷重 ( Ultimate Load ) 倍数になり、この応力に対して機体が 3秒間耐えなければならず、その後は変形・破壊につながります。
ジェット気流の強い日には 富士山 ( 3776 m ) の風下に近づかないというのは、日本の パイロットの常識ですが、冬など西や南から羽田に向かう飛行機が、千葉県の房総半島上空の高度 1万フィート (3,300 m )~8,000フィート (2,400 m )付近で ガタガタ揺れるのは、富士山に当たって生じた 乱気流の渦が、 80 キロも遠く離れた地点まで減衰しながら運ばれて来るからです。
この渦は肉眼では見えない、いわゆる晴天乱気流 ( CAT ) ですが、時には富士山の風下に乱気流の雲が生じて見えることもあります。( 続く )
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