飛行機への落雷
以下の写真はいずれも クリックで拡大。
昔から怖いものといえば、地震、雷、火事、オヤジでしたが、最近では オヤジの権威が失墜したどころか、寝ているうちに息子や娘に殺される時代になりました。
ところで、ほとんどの機長は飛行中に 一度や 二度は 落雷 ( Lightning Strike ) を受けた経験があると思いますが、下記の動画は全日空の B-747 が、離陸直後に落雷を受けた珍しい映像と、別の飛行機の飛行中の映像です。全日空機の場合は石川県小松市にある航空自衛隊小松基地か、北海道千歳空港に隣接する航空自衛隊の滑走路ではないかと思います。
http://jp.youtube.com/watch?v=5IRfbC0RHsY
別の飛行機への落雷
http://jp.youtube.com/watch?v=036hpBvjoQw
飛行機 ( 車も同じ ) に落雷を受けた場合にはどうなるかといえば、電気の父とも云われ
「 ファラデーの法則 」などで電気工学の教科書 ・ 参考書に必ず名前が出てくる、 イギリスの物理学者 マイケル ・ ファラデー ( Fatraday 、1869年死亡 ) が、 1836年 におこなった 静電遮蔽 ( しゃへい ) に関する 「 鳥かご実験 」 があります。
下の動画は ファラデーの実験を模したもので、周囲を金網で囲って 静電遮蔽 ( しゃへい、 Electro-static Shield ) された ケージ ( Cage 、鳥かご ) に、 数万 ボルト の静電圧を加えて火花放電をさせても、中の人はまったく安全です。
http://jp.youtube.com/watch?v=Zi4kXgDBFhw&feature=related
これと同じことが、落雷を受けた飛行機や 車でも起きます。
飛行機は全体を金属板で覆われているために、 落雷による静電気の電流は外側の金属板が電場 ( 電界 ) を遮 ( さえぎ ) り、静電気力線が機体内部に侵入できないため、 機体の表面を流れます。
そのために機内の乗客が感電死したり、漏れた靜電流で体がシビレル ようなことは決して起きず、大きな音や夜間では閃光を感じますが、時には機内の照明灯が一瞬点滅する程度です。
この現象に関して一部の メディア では 表皮効果 ( Skin Effect ) に原因を求めていますが、表皮効果とは [ 高周波電流 ] が導体を流れる際に、導体の中心ではなく表面付近を流れる現象であり、落雷現象とは全く無縁の誤った説明です。
飛行中に落雷を受けやすいのは主に飛行機の機首や翼端、アンテナなどの突出部分ですが、機首にある レーダー・ドームが損傷を受けたり、雷が通り抜けた機体の ジュラルミン製外板には、熱で溶けた小穴が点々と並んでできたり、電気系統・電子機器に一時的に不具合を生じることもあります。
落雷を受けた機長は 被雷報告書 を会社に提出すると共に、必要な場合には整備士による機体の被雷点検が行われます。昔の飛行機とは異なり現代の飛行機は、機上 コンピュータなど重要な部分については落雷による電圧 サージ ( Surge、急激な上昇 ) など から守り、電気的に シールド ( 遮蔽、しゃへい ) されているために、落雷により墜落する事態は 「 基本的には 」 起きないはずです。あくまでも はずです。
今年 ( 平成20年 ) の 1月に、北京から ロンドンに向かった英国航空 ( BA ) の B-777 型機が、ロンドン ・ ヒースロー空港へ進入中に 二つの エンジンの出力を失い、 ロンドンの ヒースロー空港に滑り込み、飛行機は大破しました。奇跡的に 136 人の乗客と 16 人の乗組員のうち、13 人が負傷しただけでした。
エンジン出力が失われた原因については、当初落雷によるものと思われていましたが、その痕跡がないことから、パイロットの操縦 ミス説も 一部に起きました。
その約 1 ヶ月後の 2 月 11 日に、ニューヨーク ・ マンハッタン の川向かいの ニュージャージー州にある ニューアーク ( Newark ) ・ リバティー国際空港 から、100 人の乗客を乗せた ロンドン行きの コンチネンタル航空の B-757 型機が離陸しましたが、直後に被雷したので すぐに ニューアーク空港に戻りました。
[ その際の機内の様子についての、乗客の証言 ]
大きな爆発があり、白い閃光が機外に見え、機内には大きな 「 バーン 」 という音がした。人々は悲鳴をあげ、私は おお神よ我々は墜落するのではないかと思った。ある乗客は何かが燃える臭いがすると言ったし、後の座席にいた少女は ヒステリー状態になり、飛行機から私を降ろして、降ろしてと、悲鳴をあげながら祈り、叫んだ。 ( 引用終了 )
私が知る限り日本では、落雷による民間旅客機の墜落事故は起きていませんが、アメリカでは昭和 38 年 ( 1963 年 ) に パンアメリカン航空の ボーイング 707 型機が、フィラデルフィア国際空港への着陸のための空中待機中に、 落雷を受けて燃料 タンク に引火爆発し燃えながら墜落しましたが、この事故で乗員 8 名、乗客 73 名、合計 81 名が死亡しました。
この事故の教訓から燃料 タンクにある空気抜き口を改善し、 ジェット旅客機に使用する燃料には、それまでの軍用 ジェット燃料の JP-4 ( 石油 と ガソリンを 50 対 50 の割合で混合したもので、引火点は、マイナス 18 度 C ) の使用をやめて、より引火点の高い 「 安全な 」 ケロシン系 、( つまり灯油 ストーブ用の 灯油に近い ) ジェット A-1 燃料 ( 引火点、38 度 C ) に変更することにしました。
[ 引火点とは ]
石油製品を加熱すると蒸気を発生しますが、これと空気の混合 ガスに 「 火種を近づけると 」 ある温度で瞬間的に引火します。この時の温度を 引火点 ( フラッシュ ・ ポイント、Flash point ) と言います。
この他に自然発火温度 ( Autoignition temperature ) というのがありますが、 たとえば可燃性液体について温度が上昇すると、 「 火種が無くても 」 自然に燃え上がる温度です。
「 ジェット A-1 」 燃料の場合は、自然発火温度は 210 度 C ですが、参考までに 家庭で 天ぷら鍋の火を消し忘れた場合には、250 度 C で白煙が立ち昇り、 370 度 C 前後で油が自然発火します。
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