有効意識時間
有効意識時間 ( TUC、Time of Useful Consciousness ) という言葉を聞いたことがありますか?。人間が高空の薄い酸素のもとで、どのくらい長く意識を正常に保つことができるかを示す値です。
下記の動画では訓練を受ける者が二人一組になり、25,000 フィート ( 7,500 メートル ) の高度で一人は酸素 マスクを着け、他の一人は マスクを外して、子供の遊戯のような動作をしますが、そのうちに酸素不足が脳や腕の筋肉に悪影響を及ぼして、動作の ミスが増えました。
http://jp.youtube.com/watch?v=jDd16CpLzBA&feature=related
私がアメリカの海軍飛行学校の低圧室でおこなったのは、酸素が希薄な高い高度で酸素 マスクを外して、自分の住所や名前を何度も紙に書くことでした。最初のうちは正常に書けましたが、酸素不足から次第に字が乱れ、後には手が動かなくなり意識も働かず書けなくなりました。
酸素 マスクを着けてもらってから自分の書いた字を見ると、あとになって書いたものは何が書いてあるのか自分でも読めない状態でした。低酸素症 ( ハイポキシア ) の怖さは 肉体的に少しも苦しくなく 、しかも自分が気付かないうちに脳が酸素欠乏に侵されることです。
さらに怖ろしいことは体や手足が動かなくなることで、緊急時に酸素 マスクを着ける時機が遅れると、自力では もはや着けることができなくなることです。
パイロットがこのような状態になると飛行機の安全上極めて危険なので、操縦室にいる二人の パイロットのうち、一人が座席を離れて トイレに行く場合などには、操縦席に残った パイロットは安全上の見地から、酸素 マスクを着用することが規則で決められています。
気付かない間の酸素欠乏症を防ぐと共に、以前説明した 「 急速な与圧喪失、ラピッド・ディコンプレッション 」が発生した場合には、即座に飛行機を 10,000フィート ( 3,000 メートル ) 以下の安全な高度まで、 「 緊急降下、Emergency Descent 」 を開始できるようにするためです。
話をアメリカ海軍飛行学校の訓練に戻しますと、低圧室の高度が 3万3千フィート ( 1万メートル ) になった際に、経験のために私たちは酸素 マスク を外すように指示されましたが、その高度では空気が薄くて息を吸っても肺に空気 ( 酸素 ) が入って来ないのです。深呼吸しても同じでした。
というのは地上では大気が 1気圧 = 760 mm Hg ( 水銀柱 ミリ メートル ) = 1,013 H Pa ( ヘクトパスカル ) = 約 1 Kg / 平方 センチ、ありますが、高度 1万 メートルでは 気圧が地上の四分の一に相当する 198 mm Hg しかなく、酸素の分圧も地上では 159 mm Hg のところ、 41 mm Hg しかありません。
高度 1万 メートルの空気を吸うと体がやや暑くなったように感じられましたが、肉体的には少しも苦しくありませんでした。このまま薄い空気を吸い続けると脳の酸素欠乏により意識が急速に失われるので、私を監視する者から酸素 マスク を着けられて、100 パーセントの酸素を吸入させられると、 短時間のうちに正常に戻りました。
後日 高度 33,000 フィート ( 1万 メートル ) の大気を、酸素 マスク無しで呼吸する訓練を受けた旨の証明書 ( カード ) が与えられました。
航空医学研究 センターの資料によれば、有効意識時間 ( TUC、Time of Useful Consciousness ) は以下の通りです。
高度10,000~15,000 フィート ( 4,500 メートル )では 1 時間以内
22,000 フィート( 6,700 メートル ) では 5~10分
30,000 フィート( 9,000 メートル ) では 90秒
40,000 フィート( 12,000 メートル ) では 30秒
50,000 フィート( 15,000 メートル ) では 10秒
さらにこの値はゆっくり減圧した場合であって、急減圧の場合には有効意識時間が、半分に減るのだそうです。
低酸素症の症状としては
熱感、疲労感、頭重感、視力低下、人格変化、判断力低下、言語能力低下、呼吸・心拍の増加、チアノーゼ、知能活動の低下、反応時間の低下、協調運動の低下、けいれん、意識障害 ( 失神 ) などです。
国内線でも飛行時間が 1時間を超える路線では 3万 フィート 以上の高度を飛ぶことが多いので、飛行機で旅行する人は万一 急減圧に遭遇し、客室の上部から酸素 マスクが落ちて来たならば、秒単位の時間を争って マスクを着ける必要があります。行動の自由が失われる以前に----。
酸素欠乏症について さらに知りたい人は、下記をクリック。
3分 41秒と 4分 2 9秒に受訓者の軽い 「 ケイレン発作 」 がみられ、9分 13秒には急速減圧 ( Rapid Decompression ) 時に機内で発生する 「 霧 」 を見ることができます。
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