酸素マスク
飛行機に乗ると毎回離陸前に非常口の位置や、緊急脱出の方法、救命胴衣などの非常用装備品や設備の使用法を ビデオ で放映しますが、その中には酸素 マスクの使用法も必ず含まれます。
ビデオ装置の故障に備えて、あるいは その設備が無い機体では、昔ながらの方法で酸素 マスクや、救命胴衣などの 「 現物 」 を示しながら スチュワーデスが デモンストレーション ( 説明 ) をおこないますが、仲間うちではこれを 「 ラジオ体操 」 などという人もいます。
飛行機が 1万 メートル ( 3万 3千 フィート ) 以上の高い高度を飛んでいても、客室内部の気圧 ( 高度 ) は 8 千 フィート ( 2、400 メートル ) を超えないように FAR ( アメリカの連邦航空規則 ) で決められています。
ちなみにその高度とは富士山の北側山麓にある 、「 富士 スバルライン 」 の終点である新 5合目の標高 ( 2,304 メートル ) や、南側にある 「 富士山 スカイライン 」の、新5合目( 2,450 メートル )とほぼ同じです。
一般にこのくらいの高度では、酸素不足から高山病にかかる恐れはないといわれていますが、なぜ飛行機には、乗客用に酸素 マスク の装備が必要なのでしょうか?。
その理由は高山病 ( 酸素不足 ) を防ぐために高い圧力にしてある客室の空気が、機体の破壊や与圧装置の故障により、 気圧の低い外気に抜けてしまい、そのままでは酸素欠乏症により死に至る危険があるからです。
写真は平成元年 ( 1989年 ) に起きた事故で ハワイの ホノルルを出発し オーストラリアの シドニーに向かう ユナイテッド航空の ジャンボ機が、23,000フィート ( 7,000 メ-トル ) 付近を上昇中に貨物室の ドア が全開した為に機体が壊れ、9人の乗客が機内の高圧空気と共に外に吹き出されて、行方不明になりました。機長はすぐに乗客に酸素 マスクを着けさせると共に、安全な高度まで緊急降下をしたために 他の乗客は無事でした。
下記の動画は旧ソ連に属し、現在は独立国家共同体 ( CIS ) の一員である ウクライナ ( Ukraine ) の 「 ウクライナ国際航空 」 の機内ですが、理由は不明ですが乗客が酸素 マスクを着けている姿です。
http://jp.youtube.com/watch?v=VrvOQReCCIo&feature=related
51年前の昭和 32年 ( 1957年、 ) 当時、 アメリカ海軍飛行学校の学生だった私は、飛行訓練に先立ちいろいろな緊急訓練を受けましたが、その中の一つには、低圧室 ( Low Pressure Chamber ) での 「 低酸素症、 簡単にいえば酸欠状態、英語では、 ハイポキシア ( Hypoxia ) 」 の体験 がありました。
直径 3 メートル、長さ 7 メートルほどの円筒状の タンク ( 室 ) に 10~15 名ほどの学生が入り扉が密閉されると、最初に地上付近の気圧から、25,000フィート ( 7,500 メートル ) の気圧まで 1~ 2秒間で気圧を下げる、急減圧 がおこなわれました。
すると タンク内には 霧が立ちこめて視界が一時的に妨げられましたが、空気が断熱膨張 ( 注参照 ) したために、空気中の水分が冷却されて霧になったのでした。
注)
断熱膨張とは気体が熱の出入りなしに、その体積を増大する現象ですが、気体の温度が低下します。この逆の現象には 「 断熱圧縮 」 がありますが、自転車の空気入れで空気を入れる際に、筒が加熱するのを経験した人は多いはずです。
御巣鷹山の日航機事故についても、 霧の発生 の有無 が問題になりましたが、機体後部の破壊により機内の空気が急激に抜ける 「 急減圧が起きた 」 のか、又は徐々に抜けて 「 急減圧は起きなかった 」 のかが、事故原因の究明に大きな影響を与えました。
航空事故調査委員会が出した報告書では、急減圧が あったとするものでしたが、日航乗員組合などは なかったと主張していました。
急減圧のことを英語では ラピッド ・ ディコンプレッション ( Rapid De-Compression ) といいますが、なんらかの原因により高空で客室の与圧が失われると、人体に酸素が不足するため脳の機能が低下し、反応が鈍くなり運動機能の低下で体が動かなくなり、判断力が失われ、さらに進むと、意識を失います。
御巣鷹山の日航機の乗員は、 2万 フィート ( 6千 メートル ) 以上の大気圧にさらされていた時間は18分以上ありましたが、この影響が無かったのでしょうか?。
しかも前回一部分引用した CVR ( 操縦室内の会話録音 ) を事故直後から聴く限り、酸素 マスク を被った時に出るような 「 こもった 」 音 ではありませんでした。( 続く )
コメント
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ラッピド ・ ディコンプレッション ( Rapid De-Compression )
ラピッド?でしょうか?
実演体操はなんとなく照れくさく、動画再生の方がよいなと思ってましたら、マダ今でも、実演があるようです。小さな飛行機なんかで救命胴衣までやったとして、何人覚えているんだろうなと、たまには抜き打ちテストで、乗客を指名してやらせれば面白いかも。もちろん、協力者には粗品進呈ということで。
投稿: あすか | 2008年8月23日 (土) 11時02分
失礼しました。「 ラッピド 」 ではなく、「 ラピッド 」 と書くべきところを間違えました。
ラピッド・ディコンプレッション ( Rapid De-compression ) のことを略して 「 ラピッド・ディコンプ 」 とも言い、別の機種では、ラピッド・ディプレッシャライゼーション ( Rapid De-pressurization ) ともいいますが、「 ラピッド・ディプレス 」 と省略する場合もあります。
乗客に実演させる---。グッドアイディア なので、御巣鷹山の事故以来、安全性向上に取り組む JAL の サービス 係りに メールしたら、泣いて喜ぶかもしれません。
投稿: Y.O. | 2008年8月23日 (土) 11時55分