再浮上
前回述べた緊急降下の方法について ブログの複数の読者から質問が寄せられたので、お答えします。
酸素の薄い高空を飛行中に機体の破壊や、機体最後部にあり機内の与圧を調節する アウトフロウ・バルブ ( Out Flow Valve 、2組ある排気弁 ) の装置が故障し、与圧が急速に失われた場合には、酸素欠乏による乗客の意識喪失などを防ぐために、直ちに客室上部から酸素 マスクを落下させて使用可能な状態にすると共に、酸素濃度の濃い安全な低高度まで緊急降下をおこないます。その操作手順とは
1:エンジンの出力を全閉する。
2:翼面上に、空気抵抗板の スピード・ブレーキを一杯に立てる。
3:機体を 45度以内の角度に傾けて旋回に入れ、乗客に プラスの遠心力 ( 座席に押し付けられる方向の力 ) を加え、次項の 30度 ダイブ ( 機首下げ ) の際に、座席から抛り出されるのを防ぐ。
4:そのまま機首を 水平線の位置から 15度 ~ 30度ほど下にさげて、急降下姿勢に入れて降下する。降下姿勢を確立したら旋回から翼を水平に戻して降下を続ける。
5:Vne ( 超過禁止速度 )近くの速度に加速して、一秒でも早く酸素濃度が濃い安全な高度 ( 1万 フィート、3千 メートル前後、富士山の 8合目の標高 ) まで降下する。
なおこの操作は、年に二回行われる機長に対する シミュレーター ( 模擬飛行装置 ) による実技審査の際には、必ず実施されます。
飛行機では機内の気圧高度が12,000フィート ( 高度 3、600メートル、富士山の 9合目程度 )を超えると、前述した酸素 マスクが自動的に落ちてきますし、それ以前でも手動で マスクを落下させることができます。
では実際に旅客機では、この種類の故障が発生するのでしょうか?。その答、世界の航空界では年に何度も起きています。今年の7月25日に、乗員乗客 365人 を乗せた オーストラリアの カンタス航空の ボーイング 747-400型旅客機 が、香港から メルボルンに向かう途中で、大きな音とともに機内の気圧が急激に低下したために 機長は緊急降下をおこないました。
最も近い フィリピン の マニラ国際空港に緊急着陸しましたが、乗客・乗員は全員無事でした。着陸後、機体を調べてみると、胴体右側に長さ約 3 メートルの大穴が開いていましたが原因は現在のところ不明で、緊急時に機内の乗客の酸素 マスクに酸素を供給する、酸素 ボンベの爆発の可能性が考えられました。
ところで 30年以上昔、縄文航空では B-727という 3発の ジェット機を運航していましたが、この機体は着陸の ショックが大きいと、乗客の頭上にある格納場所から酸素マスクが落ちる クセ がありました。
あるとき ( 当時は若かった )老妻 と一緒に、旅行の帰りに 羽田空港から伊丹空港まで自社便に乗りましたが、顔見知りの 某 機長が操縦席にいました。伊丹に着陸した際に接地の軽い ショックがありましたが、二度目にはひどい接地の ショックがあり、客室の酸素 マスクが大量に落下しました。
すると近くの席にいた外人の団体客が先を争って酸素 マスクを着けるのを見た女房は、自分も慌てて、頭上に垂れ下がった 酸素 マスクを着けたではありませんか 。私は彼女に言いました、「 着陸すれば機内の気圧は自動的に地上と同じになるから、マスクなんか要らないよ。」
某機長の失敗の原因は最初に接地した際に、飛行機が バウンドして空中に再浮上 ( バルーニング、 Ballooning ) したにもかかわらず、それに気付かずに着陸したものと思いこみ、グラウンド・スポイラー( Ground Spoiler、注:参照 ) を手動で立てたのが原因でした。
最近の飛行機では、自動着陸、自動スロットル( エンジン出力レバーの自動化)、着陸後の グラウンド・スポイラー も自動で立ち、着陸後の ブレーキ操作も自動と、何でも自動化されて便利な世の中になりました。
注:)グラウンド・スポイラー ( Ground Spoiler )
着陸後に翼の上面に立てる抵抗板のことで、揚力を急激に減らし、機体の重量を車輪にかけることにより、ブレーキの効果を高めるための装置です。この抵抗板の一部を飛行中に、 スピード・ブレーキ としても使用します。
たとえばある飛行機では片翼の グラウンド・スポイラー ( 抵抗板 ) 6枚のうち、4枚は スピード・ブレーキ として飛行中の減速や、緊急降下時を含む降下率の増大にも使用します。
なお悪口を言った B-727 にも短距離選手としての長所がありましたが、それは水平尾翼が高い位置にある 「 T 」 字翼 ( T -Tail ) のために、高い降下率を得る為に主翼の スピード・ブレーキ ( 抵抗板 )を一杯に使用しても、それにより発生した空気の渦流が 水平尾翼には当たらず、他の飛行機のように ガタガタと、バフェッティング ( 叩くような揺れ、Buffeting ) がしないことでした。
9月2日に ニフティーの プログラムが変更され、画像をクリックしても、 これまでのように拡大されなくなりました 。この件については、9月9日に説明があるそうです。
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コメント
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金野さま 久しぶりです笑顔、
4年前は新千歳空港に
着陸したおりは、747で 主翼が 油圧シリンダー
作動し後方に半分程度スライドし 隙間から圧力
逃がし 降下しゆるやかでした。ビビリ がたつき
なし。尚 燃料は当時において零戦は4000メーター手前から水分が凍るので キャブレーターまで
いきませんので息つき加速不良そのため鹿革で
濾して水分100%近く除去したそうです。
投稿: 朱矢義彦 | 2008年9月 6日 (土) 22時04分
こんにちは
ジェット機には低速飛行での失速を防ぐために、主翼の前縁と後縁に フラップがあり、離陸や着陸時には ご覧になったように、スライドして展開し翼が広くなったようになります。
民間旅客機の燃料は マイナス 47度 C まで凍らない性能がありますが、冬期 シベリアの上空では外気温が マイナス 65度 C にもなります。
しかし飛行中は空気との摩擦熱による機体の温度上昇もあり、燃料凍結で エンジンが停止した事故は起きていません。
エンジンの燃料 パイプ内に金網のフィルター ( 濾過器 ) があり、燃料に含まれる水分が凍結すると、氷片で金網の目が詰まり始めるので警報灯が点灯し、燃料 ヒーターを作動させます。
投稿: カネノ | 2008年9月 7日 (日) 08時18分
笑 金野さま、回答ありがたく 拝読しました。
1970年 ”大空港”バートーランカスター
ディーマーチン ジョウジーケネーディ ジーン
セバーグ 思い出して おります。
投稿: 朱矢義彦 | 2008年9月 7日 (日) 19時23分