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2009年2月22日 (日)

刑事訴追されない、米国のパイロット

千葉県外房沖上空で 2 月 20 日正午前、マニラ発成田行き ノースウエスト航空 2 便 (ボーイング 747―400 型機、乗客 408 人・乗員 14 人) が、空港の南約 70 キロ・メートル、高度約 4、600 メートルの洋上を旋回しながら、着陸許可を待っていました。

Nwturb その際に シートベルトの着用 サインの点灯直後に機体が乱気流により大きく揺れ、乗客の中には ベルト着用が間に合わずに座席から投げ出された人もいて、乗客の フィリピン人男性 ( 68 ) が頸椎 ( けいつい ) を骨折し、同国人女性 ( 60 ) は頸椎を損傷しました。

機長らは乱気流で多数の負傷者が出たことを知りながら、メディカル ・ エマージェンシイ ( Medical Emergency 、医療上の理由による緊急事態 )  を宣言せず、したがって航空管制上の優先的取り扱いを管制官に要求しませんでした。

今朝 ( 21日 ) の新聞によれば、国土交通省の事故調査官が来る前に、ノースウエスト 機は機内の清掃を終えたとのことでしたが、証拠隠滅を図ったのでしょうか?。

[ 免責、司法取引 ]

航空事故に関する司法の取り扱いについて日米の間には大きな違いがありますが、米国では航空事故を起こした パイロットは、知っていることを隠さずに全て話すことを条件に、刑事訴追を受けないという 「 免責 」 が与えられています

日本には無い司法取引の制度とは、刑事事件を法廷で最後まで争うには多大の時間と費用がかかるため、それらを節約する目的で、検察官と弁護人との間で事件を軽い処分で決着させようとする、アメリカ特有の制度です。

司法取引と免責の具体例としては全日空の新機種選定に絡み、昭和 51 年 ( 1976年 )  ロッキード事件が起きましたが、トライスター機の日本への売り込みに際して、5 億円の ワイロ が渡された受託収賄罪および外為法違反容疑で、田中角栄 前総理が逮捕された事件でした。

その際には ロッキード社の副社長の コーチャンの弁護人と アメリカ司法省が司法取引をおこなった結果、コーチャンに免責を与え、彼が贈収賄事件について知っていたことを全て供述し、その証拠を含めて日本の裁判所が田中角栄を有罪 ( 懲役 4 年の実刑 ) にしました。

[ 法律で何を守るのか ]

日本では自動車運転中に人身事故を起こすと、 業務上過失 ( 致死 ) 傷害罪で罰せられるのに、アメリカでは パイロットに 、なぜ免責を与えるのかという疑問が起きるのは当然ですか、そこには 法益 ( ほうえき ) に関する考え方の違いがあります。

法益とは聞き慣れない言葉ですが、法によって保護される、 社会生活上の利益   のことです。

Aiedisaster 事故を起こした機長に免責を与えずに事故調査をおこなえば、彼は事故の責任を少しでも免れ、受けるであろう刑罰を軽くするために ウソ をつき、あるいは憲法 38 条に定められた 黙秘権 を行使して、事故の真実について述べることを、拒否するかも知れません。

そうなると航空事故の真相解明に時間が掛かり、あるいは事故原因の正しい究明ができずに、誤った結論に導く事態になることさえも考えられます。

さらに もし機体やエンジンの欠陥による事故であれば、その危険な飛行機が世界中で多くの乗客を乗せて、事故調査の最中でも、毎日飛んでいることになります。

自動車事故とは異なり、数百人の乗客を運ぶ民間航空機が一旦事故を起こせば、地上に数百個の棺桶が並ぶ事態になります。

航空機事故の原因調査の目的は、当該 パイロットを処罰するためではなくて、同種の事故の再発を未然に防ぐことが最大の目的ですそれにより航空機の安全性を高める事の方が、社会にとって、より利益が大きいと判断しているからです。

ちなみに国際民間航空機構、( ICAO、International Civil Aviation Organization  )  が定め、各国が批准した国際民間航空条約の第 13 附属書には、事故または インシデント (  Incident 、事故に至らない出来事 ) 調査の基本目的は、将来の事故、または インシデント の防止であり、罪や責任を課すのが調査活動の目的ではないと記されています。

さらに事故調査によって得られた資料は、事故防止 以外の目的 に使用してはならないと規定されていますが、日本ではこの条約に反して、パイロットを罰する検察側の有力な証拠として法廷に提出されるのです。

事故を起こした パイロットを処罰する国は、世界中で名前は忘れましたが、 日本以外には 1~2 ヶ 国 しかありません。

ノースウエストの パイロットもそれを知っていたから、証拠隠滅を図ったのであり、過去には警察の取り調べを待たずに、次の便で出国してしまった外国機のパイロットの例もありました。

これまで述べたように日本は航空機事故調査の後進国ですが、よく考えてみてください。

Court 憲法で規定した 「 法のもとでの平等の原則 」 の考えから、現在のように自動車事故と同様に、パイロットを業務上過失致死傷の罪で禁固刑、執行猶予の刑を課すことが、「 社会の 利益、( 法益 ) 」  を守る上で果たして 望ましいことなのか、どうかを。

それよりも パイロットに免責を与え、事故原因の調査に協力させる方が 航空機事故の防止や減少につながり、ひいては 「 国民の利益 」 に合致すると多くの国々では考えているのです。

誤解を防ぐために付け加えますが、すでに退職した私は、パイロットにとって有利になるようにとの意図から、「免責」 の件を述べているわけでは決してありません。

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