伝聞証拠禁止の原則
元自民党幹事長で政界から引退した野中広務が、6月3日に北京で中国共産党の序列第 5 位の劉雲山 ・ 政治局常務委員ら要人と会談した。
その際に、 「 尖閣諸島の領有権問題 の棚上げ については 1972年 ( 昭和 47年 )の日中国交正常化交渉の際に、当時の田中角栄首相と中国の周恩来首相との間で合意があったとする趣旨の話を、後に田中角栄から聞いた」
とする件を彼に伝えたことを日本人記者団に明らかにした。
鳩山といい野中といい中国に招待されると相手に気に入られようと媚 ( こ ) びを売り、国益も考えずに愚かな発言をするのには呆れるばかりである。
記者会見の際に野中が日本語で 「中日」 という言葉を使ったのを聞いたが、とたんに 野中広務の見識 ・ 知能程度を疑った 。日本人のくせになぜ 「日中」 と言わないのか?。
安保条約のことを日本では 「 日米安保 」 というが、アメリカでは 「 US-Japan Security Treaty 」 と自国の名前を先にするのが 国際常識というものだ 。京都府船井郡園部町の田舎の町会議員から成り上がった政治屋は、こんなことも知らないらしい。
ところで刑事訴訟法第 320 条には 「 伝聞証拠禁止の原則 」 が規定されているが、刑訴法を習ったことのある者であればすぐに分かることである。 伝聞 ( でんぶん ) とは簡単に言えば、自分の直接体験以外の 「 またぎき 」 や 「 うわさ 」 のたぐいである。
刑訴法 320 条 第 1 項
( 前略 ) 公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における 他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
なぜなら、書面に対しては反対尋問ができないからであり 、「 またぎき 」 は証拠としての信憑性 ( しんぴょうせい、信頼してよりどころにすること ) に欠陥があるからである。
周恩来と田中の会談内容について野中がその場に立ち会って直接見聞したわけではなく、 田中から聞いた話として 中国共産党幹部や記者団に話したことは 「 伝聞 」 以外の何ものでもなく、証拠としての価値は ゼロ にすぎない。
なぜなら田中の話を野中が 聞き違えた可能性、さらに野中の意図的な歪曲の可能性 があり、まして田中が既に死亡しているために真偽を確認する方法も無い。刑事訴訟法では 「 伝聞証拠 」 は、証拠としての 使用が禁止されている。
外交関係で有効なのは口約束ではなく国家間で取り交わす合意文書であり、通常、批准を必要としないが、条約に準ずる効果をもつ交換公文である。日中間の合意文書や記録には、棚上げ論の記載は存在しない 。
棚上げ論の有無の件はさておき、より重要なことは平穏無事な尖閣諸島の状態を最初に破ったのは、中国による 1992 年の領海法制定 の際に 尖閣諸島を自国領とした事実であり 、日本政府による 2012 年 9 月の尖閣国有化に遡る 20 年も前のことであった 。
この事実を報道する左翼系 マスコミは、なぜか少ない。
左翼主義者にとっては日本の国益より、革命の先駆者 ・ 師表 ( しひょう、見習うべき手本 ) である 中国の国益 がより重要とみなしているからであろう。